ドメインは懐(ふところ)の深さで決まる
★米国の鉄道会社が衰退したのは、企業ドメインの設定を誤ったからだ。 ★米国の映画会社が低迷から脱出できたのは、企業ドメインの設定が正しかったからである。
 「あいつは、懐(ふところ)が深い」「大器晩成だ」
 「あいつは、器量が狭い。」「若いくせにこぢんまりと型ができあがっている」など、人を形容していうことがありますが、企業にも同じ様な言い方がされることがあります。このとき、「懐」とか、「器量」という言葉は「企業ドメイン」という用語に置き換えられ、企業ドメインを説明する教科書で必ず引き合いに出されるのが、アメリカの鉄道会社と映画会社です。どちらも懐が狭かったせいで、事業を自ら苦しい状況に追い込んでしまいます。

 まず、鉄道会社の例です。アメリカの鉄道会社は巨大企業の代表でした。社長が余力でオクスフォード大学をつくった話は有名です。
その鉄道会社も自分のところの事業領域(=企業ドメイン)を「鉄道」と捉えたため、トラックなどの陸上輸送との競争に勝てず、今では見る影もないぐらい衰退させてしまいました。二本のレールを愛した鉄道員(ぽっぽ屋)高倉健のイメージでしょうか。滅び行くものには哀愁があって、それはそれで良いのですが、それは映画の中だけの話です。もし、アメリカの鉄道会社が自分の事業領域を「鉄道」と捉えずに「輸送」と考えたら、今のように衰退の一途をたどることはなかったと必ず経営の教科書には書かれています。

 もう一つ、引き合いに出されるのがアメリカのハリウッド映画です。これもテレビの登場によって極度の営業不振に陥りました。それは、映画屋さんたちが、映画そのものに愛着を覚え、テレビを軽蔑しきって何も手を打とうとしなかったからです。邦画「蒲田行進曲」のように昔の全盛時代を懐かしんで時代の変化をうらむといったイメージでしょうか。しかし、ハリウッドは、そのまま手をこまねいていたわけではありません。自らドメインを変えたからです。
「映像を提供する」産業から「総合的なエンタテイメント空間を演出する」産業に変身することに成功したからです。むしろ、日本映画の方が心配です。テレビではできない豪華配役陣、豪華予算あるいは、芸術性、難解性、情緒性など、あくまで「映像」から離れられない思考を繰り返すのであれば、アメリカの鉄道会社と同じ道を歩むことになるでしょう。ただし、まったく脈がないわけではありません。「千と千尋の神隠し」や「踊る大走査線」はこれまでの邦画の枠を超えエンタテイメントや事業性を強く打ち出した作品です。
邦画もまだまだ捨てたものではないかもしれませんね。

 「花王」は含みの大きい企業の代表です。花王は原点志向の会社と言われています。最初は石鹸の製造から始まったのですが、石鹸から原料に遡及し、徹底的に研究を重ね、原点を極め、今度は原点から、油脂科学、高分子化学、生物化学と手を広げ、フロッピーディスクなど情報記憶媒体まで製造できるようになったのは、花王が単に石鹸やトイレタリー商品を製造する会社と自分自身を捉えていないからだと思います。
企業ドメインとは 企業ドメインとは、「企業の活動の範囲や領域のこと」。つまり、企業が戦う領域、戦わない領域を決めることである。
「JMR生活総合研究所」より
 
企業ドメインの戦略論(中公新書) これまで一貫して高成長を持続してきた日本企業をとりまく経営環境は、いま大きく変わりつつある。まず、どのような領域を自社の存在領域として構想するか、という戦略決定が改めて問われており、成長の方向性について主体的展望をもち、意識的に全社的な事業構成の定義と組み替えとを行なうことが不可欠となってきた。本書は「ドメイン」というキー・コンセプトによって、それが如何になされるかを、具体例を通して考察する。
 高度成長期には、器量が狭かろうが、若いくせに老成したサラリーマンだろうが、何でも良かったのです。製品をつくり続ければ、あるいは売りさえすれば儲けにつながったわけですから、誰でも良かったのです。ところが成長が止まってしまった現代ではそうはいきません。人も企業も視野が狭ければ、時代の流れについていけず、取り残され、やがて沈没してしまうのは必定だからです。
 どんなに環境が変わろうと、厳しい状況に追い込まれようと、それを飲み込んでしまうほどの大きな器が人にも企業にも求められるようになっています。
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