理解力を増強する秘訣
 「意味を理解する」ということは、頭の中でどのような現象が起きているのか、ちょっと想像してみましょう。
 私たちは、意味のない数字や文字の羅列を簡単には記憶することはできません。また、なんとか記憶できたとしても長時間それを保持することは困難です。例えば、 ルート2は(ひとよひとよにひとみごろ=1.41421356)、 ルート3は(ひとなみにおごれや=1.7320508)と覚えれば、簡単に暗唱することができ、しかも長期に記憶にとどめることができます。数字だけでなく、物の考え方など抽象的な概念も同じです。

 人は生きている間にいろいろな経験をします。期せずして自分の身に降りかかった災難等を現実のものとして受け入れようとするとき、その人なりにこれまで経験してきた知識と照らし合わせて、今、目の前で起きている出来事に意味を与え、現実として受け入れるための準備あるいは防衛反応が自動的に働きます。

 逆に、これまでの経験を超えるような災害や犯罪に巻き込まれたりして強い衝撃を受けると、人によっては、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やトラウマとなって心に深い傷跡を残すことがあります。

 つまり、私たちは、様々な出来事について絶えず「意味」を考え安全を保持し安定感を得ているといってよいでしょう。無意味な言葉の羅列など、とても覚えていられるものではありません。

 例えば、大学の講義や職場の会議で話を一生懸命聞いてノートに書き取った経験のある方は多いと思いますが、書き取った内容について驚くほど覚えていないことに自分自身情けなく思ったことはありませんか。
それは、ノートを取っているとき、確かに講師は意味のある内容を言葉にして語っているのですが、ノートを取る方は、講師の語る言葉を書き取ることに集中してしまい、講師が伝えたいと思っている意味が、真から自分のものになっていないためです。一語一句を逃さず書き取る速記の術でも心得ていれば問題はないのでしょうが、単語を書き取ることに夢中で、それなりの達成感はあるのでしょうが、後で読み返すとき、何を書いているのか思い出せなくなった経験をお持ちの方も多いと思います。

 報告書を書くとき、講師の話を思い出すのではなく、あちこちに書き散らされた単語をつなぎ合わせ、意味のある文章に構成し、あたかも講師が話したように報告書をまとめる方もいらっしゃるのではないでしょうか。でも、これは結構危険なのです。文章力があればあるほど、強引に単語と単語の間に、いろいろな装飾語や言い回しを織り交ぜて、講師があたかもしゃべったように書いてしまうことになります。人の話を真剣に聞かなくても、聞いてきたような嘘がつけるものですから、これ以上の楽はありません。行き過ぎると人の話を聞かない頑固者になってしまう恐れがあります。まだまだ若いのに人生のすべてを知ってしまったような顔をして、うんちくを語り、老成してしまう人もいますが、小さくまとまってしまえば、発展もないし、老化を早めることにもなりかねません。

 物事を理解するということは、その人がどのような経験をこれまでしてきたかが、とても重要であり、その人が自分の経験と照らし合わせながら、意味を考えることで、納得のいったところで記憶につなげようとすることにほかありません。ですから、狭い経験だと、意味も発展しようがありません。認識を深めるためには、受け入れるふところも広げる努力を惜しんではいけません。

 講義や会議録を取るときも、自分流の解釈でまとめてしまわないように、書き取る単語は最小限にとどめ、話す人がどんなに気の利いたことを言おうが、長々と話そうが、ペンを走らせずに、じっと我慢して話を聞き、話をしている人が言おうとしている意味を聞き取るべきです。その意味を理解したなら、その意味を自分の言葉で書き換えて正確に書き取ってください。意味のわからないまま、先生の言った言葉を丸写しするよりも、自分の中でいったん整理し、どんなに貧弱な単語を使ってもいいので、先生の言った意味を正確に再現しようとする努力を払った方が、かえって話し手の「意味」に近づくことができるし、同時に、自分のものとして、また一つ経験の輪を広げることができるのです。
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