|
劉邦は、自分に忠言する意見やアイデアの中から、彼がめざす目標に合うもの
を選別して採用していけばよかったのです。
一人の卓越したリーダー項羽が率いる項羽の軍団は、寄せ集めで多彩な個性で
構成される劉邦の軍団を、これでもかというほどうち負かし続けました。
なぜ、最初のうちは、劉邦はうち負かされ続けたかという理由を考えてみます。
項羽や劉邦をはじめ、当時の群雄はいずれも「天下統一」という単純な目標に向
けて、一直線に走り続ければよかったわけです。
日本でいえば高度成長期がそういう時代に当たります。企業は、ただ売り上げ増
をめざしていればよかった時代です。
高度成長期には、一人のリーダーを頂点とするピラミッド型、あるいは、中央
集権型の組織(「官僚制」と呼ばれています。)が効率的で、事業の拡張にはぴ
ったりでした。
しかし、高度成長期が終焉をむかえ、成熟社会と呼ばれるようになった今の日
本においては、高度成長期にやみくもに売り上げを伸ばしてきた大企業が次々に
倒産していきます。これらの破綻する企業の多くは、項羽軍団と同じ、一人のリ
ーダーを頂点とする縦に階層が長いピラミッド組織で成り立っていました。
今のような先が見えない時代において、ピラミッド組織では、大企業も官庁も、
うまく機能しなくなっています。
いずれ、全国隅々まで制覇し、天下統一をほぼ目標達成と思えた項羽の軍団が
内部から崩壊していくように、大企業も官僚組織も同じ過程をたどっていくに違
いありません。
低成長、いわゆる成熟社会となると、多彩な個性が寄り添う劉邦の軍団が、そ
の威力を発揮するようになります。劉邦の軍団はピラミッド型ではなく、階層が
低く、横に広がるフラット型の組織といえるかもしれません。
ピラミッド組織のリーダーは、資質に優れた代表者でなければつとまりません。
しかし、成熟社会においては、成長しないことに焦り、さらに悪いことに、過
去の成功体験に縛られ、他人の意見を聞く耳を持たなくなる傾向があります。自
分はそんなことはない、謙虚な耳を持っているとリーダーは思っていても、縦に
長い階層を情報が上がってくるまでに、悪い情報はふるい落とされ、生の情報も
都合のよいように加工され、リーダーの耳に届くときは、耳障りのよい陳腐な抽
象的な情報だけになっているのかもしれません。
リーダーが正しい情報を把握できずに組織が大きな誤りを犯したり、大きな事
件に発展したケースが、これまでに何度も起き、マスコミを賑わせてきました。
このように、ピラミッド構造の大企業あるいは官僚組織は忍び寄る真の危機に
気がつかないまま、少しずつ内部から疾患が広がり、いずれ身体中に病巣が広が
り、巨像は倒れていきます。(「大企業病」とも呼ばれています。)
このため、トヨタなど現代でも成長を続けている大企業は必死で組織改革を行
い、組織をフラット型に変えてきました。
ただ、組織をフラット型にすれば、それを支えるリーダーの度量はかなり大き
くなければなりません。
ピラミッド型と違い、中間層が少ないですので、リーダーの元に入ってくる情
報は、比較にならないぐらい量が増え、中には役に立たない情報もたくさんある
ことでしょう。リーダーは、それらの情報をよく耳で聞き分け、自らも積極的に
外にでて情報を集め、企業を成長に導かなければなりません。
これからのリーダーに求められる資質は、より幅広い情報が集まってくるように
たとえ自分の嗜好とは相容れないと思われるような価値観であっても、ふところ深く
許容できる度量を持つこと、また、よい情報を聞き分ける「よい耳」を持つことの
2点であると考えられます。
現代のビジネス世界の勝者は、知識と腕力を併せ持つ項羽よりも、いろいろな
人材や情報が自然と集まる劉邦ということができそうです。 |
|
|