リーダーにもソフト化が求められている

 リーダーシップに求められる機能の面から考えてみることにします。
 歴史上の人物が残した業績は、後から脚色されたものも多く、真実が見えづらい面もありますが、事実だけを抽出すれば現代に求められるリーダーシップと共通点がたくさんありそうです。例えば、織田信長の元に「今川義元が現在桶狭間で休憩中」という情報が入らなかったら歴史は大きく変わっていたでしょう。また、アドルフヒットラーに「連合軍がノルマンディに上陸した」という情報がいち早く伝わっていたら現在の世界情勢も大きく変わっていたでしょう。このように、「情報」を掴むか、あるいは見放されるかで、リーダーとその率いる集団の運命は大きく左右されるのです。ですから、正確な「情報」を誰よりも早く収集することはリーダーであるための第一条件といってよいのかもしれません。

  リーダは頭が良いだけでは務まりません。良い情報も悪い情報も受け入れる度量が必要です。失敗した部下を批判したり叱ってばかりいるだけの上司には悪い情報は集まってこなくなります。部下の成功だけでなく失敗も正しく評価してください。その結果でなく過程を部下と一緒に親身になって考えてあげるべきです。部下は果敢にチャレンジ精神で臨んだのに運悪く良くない結果が出たのであればその勇気を褒めてあげるべきです。責任は上司が取ってあげてください。部下の不注意による失敗であり、その不注意を部下自身が十分自覚しているのであれば許し、失敗の原因を客観的に評価し、二度と失敗が起きないよう配慮すべきです。部下からの報告は、部下の心情を思いやりながら聞いてあげてください。人間は誰にでも見栄があります。失敗した部分は都合の良い注釈がついて報告するものです。それを批判するのではなく、辛抱して聞いてあげる度量も必要です。そうするうちに、良い情報も悪い情報もたくさんあなたの元に集まってくるようになります。

 大企業で強烈な成功体験を持つ最高経営責任者のなかには、そのカリスマ性の故に、畏怖され、都合の良いが情報しか集まらなくなることがあります。そのうち、イエスマンだけで配置され、いい気持ちで過ごしている間に世の中の動きに鈍感になり、時代の変化に伴う事業のチャンスを見逃すどころか、リスクマネジメントさえ働かなくなり、内部から
崩壊を始めるのです。
ノルマンディ上陸作戦
1944年6月6日
 リーダーの度量が広ければ広いほど、りーだーのもとに良い情報も悪い情報もたくさん集まるようになります。しかし、いくら情報を集めても活用することができなければ、リーダーとして信頼を得ることはできません。情報から新たな価値を生み出して仲間や社会に還元してこそリーダーとしての存在価値が認められます。

 経営戦略について考えてみましょう。企業の価値は、社会に提供する付加価値の質と量で決まります。企業は、物的資源、資本、労働力など様々な投資を受け、これらに付加価値を加え社会に提供することで利益を得ます。企業は製品市場や資源市場で直接利害を有する顧客、従業員、原材料供給業者、株主、金融機関などの貢献によって成り立っています。もちろん彼らは慈善事業で貢献しているわけではありませんから、当然、貢献以上の見返りを求めています。つまり、企業が社会的に存続していく価値があると認められるためには、「利害関係者の貢献の量<利害関係者への見返りの量」の式が成り立たなければなりません。

 リーダーも同じです。与えられた情報以上の情報を還元することができなければ、リーダーとしての存在価値はありません。勤務年数または過去の成長期における成功体験だけに頼ってリーダーの席に収まっている者はいつの日か席から引きずり降ろされることでしょう。勤務年数や過去の栄光は未来を約束するものではありません。

 それでは、豊かな情報を発信するための基盤について考えてみましょう。もちろん業務知識はあるにこしたことはありません。中間管理職であればある程度の業務知識は必要でしょう。でも、あなたの身の回りを見渡してみてください。業務知識の豊かな人はたくさんいらっしゃることでしょう。それらのすべての方がリーダーシップを備えているか、あるいは周囲に好影響を与えているかといえば、決してそうではないと思います。業務知識以上に部下から一目置かれるものを上司は身につけていなければなりません。それはその人の言動によって周囲を変えていくような影響力だと思います。日産のカルロスゴーン社長が畑違いのソニーの社外取締役に収まることができるのも業務知識を超える周囲への大きな影響力を内に秘めていているからに違いありません。これらの影響力は、小手先の技術や付け焼き刃のスキルで身につくものではなく、人間社会を生きていく上で誰もが価値あるものと認める愛、道義、正義など、古来から語り継がれてきた人の生き方、生き様のようなものだと思います。

 部下を指導するのに百万言を費やすよりも、率先垂範してあなたが行動して部下に示すべきです。「経営学」や「リーダーシップ」の解説書に相手に良く思われるための目線、表情、ボディアクションなど詳しく解説されたものがありますが、演技ではなく心から態度に表れるものでなければ相手はすぐに見抜かれてしまいます。

 吉田松陰は幼少の頃、叔父・玉木文之進から厳しい教育を受けました。こんなエピソードが残っています。暑い夏の日に『論語』を読んでいた幼い松陰の額に一匹のハエがたかりました。松陰は痒くてがまんできずに手で額をかいたところ、文之進から鉄拳が飛んできました。文之進によれば、それを許せば学問を私利私欲のために為す人間に成り下がってしまうというのです。松陰が現代も人々の記憶から消えないのは、日本のために私利私欲を棄て難問に立ち向かったからではないでしょうか。

 リーダーシップやマネジメントを学ぶにしても、小手先ではなく、真に意味を理解し、自分の言葉で語ることができるまでに深く習得すれば生きた学問として必ず役に立つときが訪れるのではないでしょうか。
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