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   「入門!システム思考」
                      枝廣淳子  講談社現代新書(2007.6.20刷)
                  

 私たちは、問題があるとき、どうしても目の前の事象に注意が向けられ、その背景や全体とのつながりを見落としてしまう傾向がある。

 個人企業や会社の経営にそれがよく見られる。
 商品が売れなくなると、どうしても目の前の事象の改善策を考え、何とか手を打とうとする。売り場のレイアウトを変える、値段を下げる、あるいは販売を中止する等々、いろいろな改善策を試みる。

 よかれと思ってやったことでも、問題を解決するどころか、かえって悪化させることもある。これは小さな企業だけの話ではない。

 GE(ゼネラル・エレクトリック)は、景気が上向きになると大量に従業員を雇用し、多大なコストをかけてトレーニングを受けさせていた。これだけを見ると最善策に見えるが、景気が下向きになると、今度は早期退職金などを積んで大量に従業員を解雇しなければならなかった。このサイクルが実は経営を悪くしていたのだ。

 GEに限らず、多くの企業が今でも景気変動による当サイクルを採用しているだろう。 しかし、本書で説く「システム思考」で分析すると、これは景気の流れにのるどころか、かえって経営を悪化させる負のスパイラルに導かれることになるのだ。

 環境の変化に対して「場当たり的」な対応をしてしまう内部システムに問題の根源があるのだ。

 部分最適は、全体から見ると悪い成果を生み出す。

 企業に限らず、環境問題でもそれはいえる。
「○○川がきれいになった」「○○工場がゼロ・エミッションを達成した」と喜んでいても、全体はちっとも良くなっていないどころか、悪くなっているのだ。

 局地戦でなく、全体を優勢に持って行かなければならない。
 その役割を果たすのが「システム思考」である。



娘「ねえお父さん、家族の安全を考えたら、次に買うクルマは大きい方がいいよね」
父「そうだね。クルマが大きいと交通事故の時に安心だね」
母「でも、家計のことを考えると、そうとも言えないじゃない」

 この親子の会話には、「安全性」と「経済性」という2つの視点が示されている。
 会話を広げれば、さらに「快適性」、「利便性」、「環境性」と話は広がっていくはずだ。

 これは家庭に限らず、職場でもいえることだが、異なる視点を持つ者同士が会話をするとき、なかなか意見はまとまらない。

 つまり、異なる視点から考えられる結果の良し悪しを比較することは非常に難しいからだ。

 昔の物不足時代は、豊かになりたいという共通の視点があり、何が必要であるか明らかであった。

 ところが現代は、先ほどの親子の会話にもあったように、一人ひとりの価値観が多様化しており、産業界が「これは売れる」と思いモノをつくっても全然売れなかったという話もしばしば耳にされるようになった。

 これまでは人の悩みを解決できるような問題点を抽出して商品を作り出すことが一般的に行われてきたが、これからは、それだけでは通用しないということだ。

 ひとつの問題を解決したところで、その解決が新しい問題の原因となるからだ。

 クルマを購入するという身近なことでも、考え始めれば多くの視点を思いつく。
 考えなければいけないことはたくさんあるということだ。

 ある問題を解決しようとするときは、多様な視点から検討し、全体(システム)という視点からあたらなければならない。





 受験生の僕は試験問題の解答を考えている。
 お兄さんはどの自動車を買おうか考えている。
 お母さんは家族の健康を考えている。

 世の中考えていない人はいない。
 でも、考える方法を考えている人は少ない。

 おいしいカレーの作り方を考えてみよう。

 美味しいカレーには、にんじんの甘さに秘密があるのではないだろうか。
 にんじんの甘さの度合いでカレーの味がどう変わるか調べたくなる。
 カレーの色もいろいろある。黒、赤、黄色が美味しさにどう関係しているのだろう。
 さらさらしたカレー、とろりとしたカレー、粘性も味に関係していそうだ。

 ところで、にんじんの甘さ、カレーの色、粘性はそれぞれ独立している要素だ。
 組み合わせても意味をなさない。
 カレーについて、いろいろ視点を動かして、それぞれ分析する。
 これがいわゆる「分析的思考」である。

 
 ところで、美味しいカレーをつくれと言われたら分析だけではだめなことに気づく。
 野菜の種類、肉の種類の組み合わせ、
 スパイスの選択、
 食材を鍋に入れる順番・・・いろいろな視点から考えなければならないからだ。。
 これらの視点を組み合わせたり、統合したりする考え方が「システム思考」だ。


 目の前にカレーがあり、これをいろいろな面から分析するのは、大抵の者が得意とするところだ。

 ところが、目の前にカレーはなく、あなたが人に勧めることができる美味しいカレーを作るらなければいけないとすると事情は変わってくる。

 まだ見ぬカレーに対して、実際問題として、材料に何を入れようか、スパイスはどうしようか、鍋にかける時間はどれくらいにしようか等々、いろいろなことを組み合わせながらシステマテックに考えなければいけなくなる。これぞシステム思考である。

 つまり、モノが目の前にあって、分析することはやさしい。
 ところが、まだ見ぬモノを、一からつくることは難しいのだ。



 おいしいカレーライスができた!
 ビストロSMAPなら「おいしーい」で済むが、具体的に言葉で説明するとなるとどう表現してよいのか困るだろう。
 カレーの中のにんじんの甘さなら説明できる。
 カレーの美味しさとなると容易ではない。
 なぜなら、にんじんの甘さの比較とか、カレーの色というように視点が定まらないからだ。 

 人の好みは多様である。ひとりの人間そのものも時とともに好き嫌いが変化する。
 デジタル技術の進展によって社会全体も大きく変化している。
 これからは多くの家電がネットでつながり、わかりづらさは増すばかりだ。
 新しい商品はより便利さが求められるようになる。

 昔の新製品はわかりやすかった。
 三種の神器といえばテレビ、冷蔵庫、洗濯機であり、わかりやすかった。
 これからの商品は、環境問題や、自分らしさ、ライフスタイルなど、いろいろな要素を考慮しなければならない。研究者や技術者が「これは売れる」と思っても、実際売れるかどうかはわからない。焦点が絞りにくいからだ。

 全体を理解するしかない。
 自分がいくら全体を理解しているつもりでも、自分そのものが全体の中のひとつでしかないのだから、簡単に全体を見渡せるものではない。

 森の中にいて、森全体を見るにはどうすればいいか。

 森の中を歩き回り、多様な視点から森を観察し、それらを頭の中でつなぎ合わせるしかないのだ。



長い経済の低迷を経験してきた日本社会が、再び経済を成長させるためには、社会を変えるような何か新しいことをしなければならない。

 これまでにない技術の開発はもとより、制度の改革、組織の効率化、そのなかで活躍するビジネスパーソンのコミュニケーション力の強化などが連鎖的に起きたときに、社会は変革し、"イノベーション"につながるものである。

 最近の社会を変えるほどのイノベーションはインターネットや携帯電話であろう。
 人々のビジネスや生活のスタイルを大きく変えてしまった。

 地球規模の課題を解決しようとするのなら、まさにイノベーションが必要となる。
 目の前にある課題解決に個々がバラバラに当たっているようでは、社会全体が陥っているマイナスのスパイラルから抜け出ることはできない。

 この閉塞状態から抜け出すためには、システム全体を再構築しなければならない。
 そこで、必要となるのがシステム思考である。

 私たちに求められるのはコミュニケーションとネットワークの力である。
 難しい専門用語を子供でも理解できるように訳して伝えることができる力がコミュニケーションである。

 また、自分の会社や取引先だけでなく、異業種や地域の人とのネットワークも重要だ。 多様な価値観を持つ人たちが、多様なコミュニケーション手段をつかって、お互いのリソースを交換することができるようになったら、システム思考が可能となり、イノベーションによって"富"をもたらしてくれることになるで
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